2018年に映画化され、2019年4月にはドラマが放送された「パーフェクトワールド」の原作は有賀リエさんによる漫画です。
これまでにあった悲しみや苦しみを乗り越える障がい者がメインの物語ではなく、障がい者のリアルな生活と恋愛をテーマにした物語になっており、連載当初から注目されていました。
実は、この物語にはモデルになった男性がいます。
今回、鮎川樹のモデルになった一級建築士、阿部一雄についてと阿部さんが監修した制作の裏側についてまとめました。
目次
阿部一雄のプロフィール

1964年生まれで愛知県出身。
明治から続く、阿部建築株式会社の5代目代表取締役社長。
2002年に、趣味のオートバイのレース中に転倒し、脊髄を損傷。
2011年には日本人最短記録で、「富士山車いす登山」登頂を果たしたり、車いすマラソンにチャレンジするなど、アクティブな活動をしています。
2016年には著書「木の家と太陽と車いす」を発刊。車いす建築士としての思いや、実際に施工したバリアフリー住宅について、紹介されています。
現在では、健常者と障がい者が快適に生活できるバリアフリー住宅を、提案する建築士として活躍中。
パーフェクトワールドのあらすじは?
- 原作:有賀リエ
- 掲載誌:『Kiss』(講談社)
- 書籍:コミック 既刊9巻 (2019年3月時点)
- 映画:2018年 岩田剛典と杉咲花によるダブル主演にて『パーフェクトワールド 君といる奇跡』のタイトルで実写映画化
- ドラマ:フジテレビ系にて2019年4月16日から毎週火曜日よる9時~ 放送中 主演は松坂桃李と山本美月
パーフェクトワールドあらすじ
東京のインテリアデザイン会社に勤める川奈つぐみは、設計事務所との飲み会で、高校の同期生・鮎川樹と再会する。
樹は大学生のとき事故に遭い、以来、車椅子生活を送っていた。つぐみはそのことに戸惑いつつ樹を気にかけるようになるが、そんな折、樹が褥瘡のため入院したと聞かされる。
病床でコンペティション用の作業を進める樹を見たつぐみは彼の作業を手伝う。この一件を経て樹への恋心を自覚したつぐみは樹に告白し、樹も彼女の想いを受け入れる。
障害者のリアル?阿部一雄が意識したこととは?
原作者の有賀先生がストーリーを練っていた時、本当はもっとサラッとしたお話だったそうです。
リアルな障がい者の姿はそこにはなく、ただ好きな彼が車いすに乗っているだけというようなもので、障がい者の戸惑いや葛藤は表面的なものに過ぎませんでした。
行き詰った有賀先生の為に担当編集者が紹介したのが車いすの一級建築士・阿部一雄さんでした。
その当時について阿部さんは以下のように語っています。
「初めは驚きました。女性向けの漫画ですし、車いすに乗った人物を描いて本当に漫画として成立するのだろうかと。
一方で、それまでに私が観た、車いす生活者の登場する作品には、涙や同情を誘うだけでテーマ性の薄いものもあったので、障がい者の本当の気持ちに近い内容になればと考えたのです。
障がい者には、当事者しか分かり得ない葛藤や悔しさがあります。
同時に、その家族にも様々な苦しみや思いがある。
健常者と障がい者の両方を経験した私には、どちらの現状もリアルに描いてほしいという思いがありました」。
阿部建設ホームページより引用
その為、映画の時には監督やスタッフとも実際に会って思いを伝えただけでなく、撮影した体の動作が現実的ではないと指摘し、撮り直しをしたシーンがあったそうです。
車いすの1級建築士だから提案できること?
阿部さんは自身の経験をもとにしたアイディアを使ってバリアフリー住宅の設計を行っています。
物語の鮎川も同じく、障がい者目線で提案するバリアフリー住宅を提案する一級建築士として活躍をしているのですが、そこには阿部さんの建築士としてのこだわりが反映されています。
健常者であればなるべく段差をなくそうとするところを、鮎川はあえて1、2センチの段差を残すことを提案します。
完全なるバリアフリーにするのではなく、その人が乗り越えられる程度の物は残し、できることはやるということの大切さを鮎川を通して阿部さんは伝えたかったのです。
心のバリアフリーを目指して
鮎川は障がい者になったことで様々なことを諦めようとしました。
恋愛や結婚は一生しないと公言したり、バスケは好きだけど車いすに乗ってまでやることかと思っていたり。
原作の1巻に出てくる車いすの少年も自分の限界を決めていました。
阿部さんも自身の経験やバリアフリー住宅の設計で関わる人たちの中で、そういう人たちを見てきました。
また、障がい者だけでなくその家族や周囲が過保護に扱いすぎてしまったり、自分のことを後回しにして障がい者の介護を優先して心や体のバランスを崩してしまう人もいるそうです。
そこで重要になってくるのは、健常者も障がい者もお互いを大切に思いあう心です。
どちらかが寄りかかり過ぎても健全な関係が成り立たなくなるのは、相手が障がい者であっても健常者であっても変わりません。
自分でできることはやって、できないことは助けてもらうという関係ができてこそ、無理のない人間関係が築いていけるのです。
特に健常者側が気を使いすぎてしまい、障がいを日常のものにしていくのに無理をしてしまうことが多いそうです。
「(鮎川)樹も僕も歩けないだけで他の人間と何ら変わりがない。もっと日常の中に落としてもらっていいんです」
と阿部さんは語っています。
大事に思いあえば世界は完璧
「パーフェクトワールド」は鮎川の目線から考えられたタイトルです。
鮎川がどう頑張ってもできないことがある中でも、互いに思いやって大事にできる存在がいればその世界(=人生)は完璧だという意味が込められているそうです。
阿部さんは、障がい者は特別な存在ではないと語っています。
「障がいを持っているけれど、誰かの助けを借りてでも一人の人間として生きていきたい。弱者は特別な存在ではなく、障がい者も健常者も、子どもから高齢者まで、皆がともに助け合って安心して暮らせる社会であることを願います」
阿部さんを含め障がい者の人たちも皆々、誰かのことを思いあっていく世界が広がることを願った物語です。
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