アメコミ映画史上初となる第76回ヴェネチア国際映画祭で最高賞の「金獅子賞受賞」を成し遂げた『ジョーカー』。
スーパーヒーロー、バットマン最大の宿敵であり、最凶のヴィランとも言われる「ジョーカー」の誕生を、まったく新しい角度から描いた本作は、日本でも50億円を超える大ヒットを記録しました。
第92回アカデミー賞作品賞にもノミネートされ、まだまだ人気の勢いは衰えることがありません。
そんな、2019年最大の話題作『ジョーカー』について、他の「バットマン」作品との関係、映画化に至った経緯などの点から解説していきます。
目次
映画『ジョーカー』と他の「バットマン」作品との繋がりは?
本作のタイトルともなっている「ジョーカー」とは、DCコミックスと呼ばれるアメリカンコミックス「バットマン」シリーズに登場する悪役(ヴィラン)です。
バットマンとジョーカーは表と裏、光と影、合わせ鏡のように善と悪を体現しています。
特に有名なのが、クリストファー・ノーラン監督によるバットマン三部作(バットマン役はクリスチャン・ベール)の『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じた「ジョーカー」でしょう。
私利私欲のためではなく純粋に悪のために凶行に走る姿に衝撃を受けた方も多かったと思います。
本作のジョーカー(アーサー・フレック/演:ホアキン・フェニックス)も、「失うものはなにもない」と悟った中盤以降、ヒース版ジョーカーに勝るとも劣らない狂気へと突き進んでいきます。
また、マイケル・キートンがバットマンを演じた90年代のティム・バートン版『バットマン』では、ジョーカーをジャック・ニコルソンが演じました。こちらでジョーカーはバットマンの両親を殺害した犯人という設定になっています。
本作でもジョーカー(アーサー・フレック)に追従した若者がバットマン(作中ではその正体であるブルース・ウェイン)の両親を殺したことになっており、ある意味で間接的な犯人と言えるかもしれません。
しかしながら、本作『ジョーカー』で描かれたのはこれらの作品で描かれてきたジョーカーとは全く異なる「ジョーカー像」です(そもそもバットマン自体が登場しません)。
監督もインタビューなどで「他のユニバースとは切り離した、独立した作品である」と語っている通り、2021年に公開が予定されている、ロバート・パティンソン主演の『The Batman』とリンクすることはないとのことです。
続編製作の報も一時期ありましたが、作品の性質上おそらく今後の「バットマン」作品と直接的な繋がりを持つことはないと思われます。
『ジョーカー』には原作がある?
本作の主人公アーサー・フレックは、監督のトッド・フィリップスが作り上げた架空のキャラクターであり、いわば、これまで描かれてきた「ジョーカー」の二次創作とも言える人物となっています。
公式に原作とされているわけではありませんが、特に本作に影響を与えたと言えるバットマン作品が、1988年に発表されたアラン・ムーアによるコミックス「バットマン:キリング・ジョーク」です。
フラッシュバックの形でジョーカーの過去が明かされていくこの作品で、ジョーカーは「コメディアンを目指す愛妻家だった」として描かれており、多くの点で本作との類似点が見られます。
ちなみに、このコミックスにインスピレーションを与えたのはドイツのパウル・レニによる映画『笑う男』だと言われており、これは笑い顔を刻み込まれた男の物語なのです。
『ジョーカー』のアーサーが悲しい場面でも笑い続けてしまうという設定にも近いものを感じますね。
監督が目指したのは21世紀の『タクシードライバー』?
トッド・フィリップス監督は本作を作るにあたり、『タクシードライバー』『狼たちの午後』『キング・オブ・コメディ』などの、70~80年代の作品を参考にしたと語っています。
そもそも、フィリップス監督がジョーカーを題材にした本作を監督したのは、アメコミ中心のハリウッド映画界に挑戦するという思いもあったようです。
実は、上記に挙げた『タクシードライバー』のようなキャラクタースタディ(キャラクターが動くことによってストーリーが生まれるドラマ映画のこと)は、現在のハリウッドでは製作しにくくなっている状況なのです。
それはマーティン・スコセッシの新作マフィア映画『アイリッシュマン』が既存の大手スタジオではなく、Netflix製作となったことからもうかがえるように、昨今のハリウッドでは重厚なドラマ作品になかなか予算がつかないという現状があるようです。
フィリップ監督はそんなハリウッド映画界に風穴を開けるかのように「アメコミ」という題材を用いて『タクシードライバー』のような映画を作ろうとしたというのです。それが単なる思い付きで終わってないことは、作品の評価の高さからも明らかでしょう。
「ジョーカー」を描きながら「ジョーカー」ではないものを描く
これらの経緯によって生み出された本作の成功は、今後のハリウッドを大きく変えるかもしれません。
本作は、これまでのジョーカー像のみならず、ハリウッドの映画界も打ち壊した革新的な作品と言えるのではないでしょうか。
まだ作品をご覧になっていない方は、1月8日からデジタル配信、29日からDVDのレンタルが開始されていますので、ぜひ一度ご視聴してみて下さい。
コメントを残す