映画『ハウス・ジャック・ビルト』は実話?ラース・フォン・トリアー監督の過去の発言から作品内容を解説!

建築家を夢見る男が繰り返してきた12年にも及ぶ殺人。その行為は卑劣な蛮行か?それとも偉大なる芸術か―?

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドックヴィル』『メランコリア』『ニンフォマニアック』などのデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアーがシリアルキラーを題材に、その利己的で歪んだ願望を描いた問題作『ハウス・ジャック・ビルト』。

特別スクリーニングとして本作が上映された2018年のカンヌ国際映画祭では、その過激で露悪的な表現方法に退出者が続出。

一方で、監督のファンからは熱烈な喝采をもって迎えられ、賛否両論を巻き起こしました。

そんなトリアー監督最大の問題作とも言える本作ですが、映画を観てみると「自虐ネタ」と感じる描写が散見され、監督の過去作から考えると意外なほどコメディ色が強い作品となっています。

猟奇的な殺人を犯すジャックと実際の殺人鬼の共通点、トリアー監督のこれまでのキャリアと発言から、この作品に込められた監督のメッセージについて考察していきます。

実際のシリアルキラーを基にしている?

支離滅裂な持論を展開し、殺人を正当化しようとする主人公ジャック。

そのサイコパスなキャラクター性は、まるで実話の人物かと見まごうほどの圧倒的なリアリティを持っていますが、ジャックというキャラクターは完全にトリアー監督のオリジナル。

インタビューなどで監督は「殺人の描写は綿密にリサーチし、リアリズムにこだわった」と語る一方、「類似の犯行や殺人者については知らない」とも述べています。

とはいえ、ジャックの行動はさまざまなシリアルキラーの特徴がパッチワークのように重ね合わされており、複数の人物をモチーフとしたのではないかと考えられます。

特に影響を感じたシリアルキラーについて紹介していきます。

テッド・バンディ

ジャックは、一見ハンサムで女性からもモテる男性として描かれています(演じるのは『メリーに首ったけ』などのマット・ディロン)。その風貌は1970年代に女性をターゲットに殺人を繰り返したしたテッド・バンディを彷彿とさせます。

また、ジャックは第二の殺人で警察官を装ったり、第四の殺人で松葉杖をついて怪我人のふりをしたりしていましたが、それもテッド・バンディが犯行の際に用いた手法です。

リチャード・ククリンスキー

別名「アイスマン」と呼ばれる殺し屋。死亡推定時刻を改竄するため死体を冷凍庫に保存していたことでも知られています。

ジャックも死体を冷凍庫に積み上げていきますし、劇中でも写真で登場する人物なので、本作に影響を与えた人物の一人であろうと考えられます。

エド・ゲイン

ジャックは第四の殺人で殺害した女性の乳房をウォレットにしていましたが、その行為は遺体の一部を「記念品」として加工していた殺人犯エド・ゲインをイメージさせます。彼は『羊たちの沈黙』の犯人「バッファロービル」の元ネタとしても有名です。

母親からの抑圧的な教育がゲインに精神的な影響を与えたと言われており、 映画内ではジャックの過去についてほとんど描かれてはいませんが、「男に生まれただけで罪を背負っている」「犯罪者はいつも男」などの発言から、ジャックもそういった偏った教育を受けたのではないかと想像できます。

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

「ジャック」「殺人鬼」と聞いて真っ先に思い浮かぶのはこの人物かもしれません。19世紀のイギリスで犯行を繰り返した殺人鬼で、主に売春婦がターゲットとされました。

事件は未解決ですが、犯人については現在でも様々な憶測が飛び交っています。多くのフィクション作品にモチーフとして描かれている、世界一有名な殺人鬼と言えるでしょう。

実は一番の元ネタは監督自身?

そんな様々なシリアルキラーのモチーフを感じる本作ですが、一番影響を受けたのではないかと考えられるのが、実はトリアー監督自身。本作は、監督のこれまでのキャリアや発言と密接に関係する、ある意味で「自身の投影」とも言える作品なのです。

カンヌから追放された過去

2011年のカンヌ映画祭で、監督した『メランコリア』がコンペティション部門に選出された際、その上映後の記者会見で「ナチスとヒトラーに共感できる」などと発言し、映画祭会場から追放処分を受けてしまいました(後に本人はこの発言についてジョークだったと主張しています)。

劇中、ジャックがナチスのホロコーストを「芸術」などと称するような描写がありますが、どこか過去の発言を言い訳しているようにも見受けられます。

監督自身本作を「これは限界まで追い込まれた芸術家の話」と語っており、それは間違いなくカンヌから追放された自分自身を指してのことでしょう。

強迫性障害とうつ病

本作でジャックは強迫性障害を持っているとされており、それによって「血痕の付着を何度も確かめてしまう」シーンは絶妙なおかしみを生んでいますが、実はトリアー監督も強迫性障害であることを公言しています。

監督は他にも様々な精神疾患を抱えており、特にうつ病には長く悩まされてきました。けれども監督はそのつらい経験も映画として昇華し、数々の傑作を生み出しています。それは殺人を繰り返すことで精神疾患を乗り越えるジャックとも重なってみえます。

 

例え地獄に落ちようとも

もちろんリアルでの殺人は、劇中のジャックのように当然の報い(地獄に落ちる)を受けなければならない行為です。

しかしながら、その結果生み出されたもの=ジャックの建てた「死体の」家は芸術以外の何物でもありません。

まさしくそれと同じように、トリアー監督の、観客を挑発するかのような刺激的な映画たちもまた「芸術」としてしか表現できないものです。

ジャックは己の芸術を完成させ、華々しく地獄へと落ちて行きました。その主人公の結末はむしろ、「例え映画界から追放されようが、自分の求める芸術を遂行する」というトリアー監督の前向きな意思表示のようにも思えます。

そしてそれは同時に、「映画は靴の中の小石でなくてはならない」と語りポリティカル・コネクトレスに疑問を呈しているトリアー監督が、安っぽいメロドラマや分かりやすい娯楽映画に溺れがちな観客たちに放った、最大の皮肉なのではないでしょうか。

シリアルキラーを描きながら自分自身と映画、そしてそれを観る人々への問題提起も促す本作は、新作が発表されるたびに物議醸す、ラース・フォン・トリアー監督の名にふさわしい、まさに「傑作」です!

まだ映画をご覧になっていない方は、ぜひ本編をご覧下さい。

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