「芥川賞」にノミネートされた「美しい顔」(北条裕子・作)が、まさか盗作問題を指摘され、いつになく荒れていた賞の選考。
その「芥川賞」と、「直木賞」の受賞者が、ついに発表されました。
受賞者は以下の作家さんに決定。
直木賞…島本理生さん 「ファーストラヴ」
芥川賞…高橋弘希さん 「送り火」
決まってみれば、納得の顔ぶれとなりました。
以下、受賞された二人の作品の詳細や歴代の受賞者、芥川賞にノミネートされながらも問題作とされた「美しい顔」の詳細について、もう一度紹介します。
〇北条裕子「美しい顔」は何が問題だったのか?
目次
先に発売されていたルポタージュの模倣と指摘される
今回の芥川賞選考は、ノミネートされた作品に盗作疑惑が浮上するという波乱の展開になりました。
この話を抜きに、159回「芥川賞選考」を語ることはできません。問題となったのは、北条裕子氏の著書「美しい顔」です。
北条さんは、この「美しい顔」という作品で2018年「第61回群像新人文学賞」の新人賞を受賞。
この作品がデビュー作でした。
はじめての作品で芥川賞にノミネートされたことでもわかる通り、かなり高い評価を受けた作品です。
内容は、2011年に起きた東日本大震災を題材にしたものでした。
しかし、この作品の内容が、先に出版されていたいくつかのルポタージュに酷似していることが発覚。
北条さんの作品は「小説」という体で描かれているものの、複数のルポタージュと酷似した内容が散見されたほか、まったく同じ文章の記載もあったと言います。
しかも、参考文献としてルポタージュを明記することさえしていませんでした。
盗作されたと言われるルポタージュ作品「遺体」を発行した新潮社では、
- 参考にした事実を参考文献として記載すること
- 似ていると指摘された部位の変更
を求めるなど、問題はかなり大きく広がっていたのです。
現地に行ったことのない作家の作品であった「美しい顔」
さらに問題になったのは、北条さんが現地・東北に取材に行っていないこと。
小説を書くことに取材が義務というわけではありませんが、2011年からまだ幾ばくも時間が経っていない「東日本大震災」を題材にするのであれば、少なくとも自分で現地に足を運び、被災者の声を聞くことが必要ではなかったでしょうか。
このことも問題視され、自分で取材に行かず、参考にした文献さえ明記しないというのは、被災者にもルポタージュ作家にも失礼ではないか?と批判されました。
法的に問題がなかったとしても、倫理の問題を問われたと言うことです。
盗用ではないと認められたものの、受賞は逃す
問題の広がりを受け、「美しい顔」を出版した講談社は「盗作ではない」と疑惑を否定。新潮社に対しても、「小説の形を否定された」と真っ向から反論しました。
しかし、問題が大きくなったことから、「美しい顔」の全文を期間限定で無料公開することとし、作品は発表に至る経緯も公表。
北条さん本人も、文書にて謝罪をしました。そして、このように物議をかもした「美しい顔」は、芥川賞の受賞を逃しました。
〇島本理生さん・高橋弘希さんの経歴と作品の詳細
芥川賞は、高橋弘希さんの「送り火」
今回、芥川賞を受賞されたのは高橋弘希さんの「送り火」。
1979年生まれ・青森県出身の男性です。
青森県の作家さんが芥川賞を受賞されることには、特別な縁を感じたという人もいるようで…。
青森県と言えば、日本の文豪・太宰治氏が誕生した土地です。
「人間失格」「女生徒」「斜陽」など、人の心の裏側を克明に描くことに長けた太宰治は、今なおたくさんのファンがいるほどの有名な文豪です。
そんな太宰治が、芥川賞ができるきっかけとなった芥川龍之介を尊敬していたのは周知の事実。
芥川龍之介に憧れて、芥川の名前を走り書きしたメモが見つかるほどのファンでした。
太宰は、憧れの芥川の名を冠した「芥川賞」をとることを目指したものの、それが叶わぬままこの世を去ります。
当時から非常に有名な作家であったにも関わらずです。その太宰が産まれた青森県の男性が、芥川賞を受賞するのは何かの縁を感じますね。
高橋さんご本人は、予備校の講師をしながら作家をこなし、またバンド活動に勤しむ才能に溢れた方。余談ですが、太宰治を嫌っていて有名な三島由紀夫の「三島由紀夫賞」も受賞されています。
「送り火」の内容は、東京から田舎町に越してきた少年が、閉鎖的な地域の中でイジメを受けるというストーリー。青森を舞台に描く、地域社会の問題と少年たちの黒い側面を暴くような作品です。
「直木賞」は、島本理生さんの「ファーストラヴ」
そして、直木賞を受賞されたのは島本理生さんの「ファーストラヴ」です。
島本さんが受賞と聞いて「やっと受賞!!」と喜んだ方も多いのではないでしょうか。
島本さんは15歳でコンテストの賞を受賞。
それから作品を発表し続け、過去に数度「芥川賞」にノミネートされた作家さんです。
数々の賞を受賞され、またはノミネートされ、満を持しての直木賞受賞となりました。
「ファーストラヴ」は、父親を殺害した女性と、その心の闇に迫る臨床心理士を描いた問題作。
女性の心理に迫っては、あらゆる角度で描写をしてきた島本さんならではの小説ではないでしょうか。
〇歴代の「直木賞」「芥川賞」の詳細について
そうそうたる作家が名前を連ねる!歴代の直木賞作家
直木賞を受賞した歴代の作家さんを調べてみると、そうそうたるメンバーが連なっています。
名前を見るだけで、直木賞の権威が伝わってくるかのよう。
2005年には、ヒット作品を連発している東野圭吾さんが受賞。
その前の年・2004年には、「神の月」「八丁目の蝉」「かなたの子」で有名な角田光代さんが受賞しています。
さらに、山本文緒さん・唯川恵さん・京極夏彦さん・宮部みゆきさん・辻村深月さんなど、本が好きな人なら知らない人はいない作家さんばかりですよね。
芥川賞が新人の作家さんに与えられる傾向があるのに対し、直木賞はベテラン作家さんが受賞する傾向が強いです。
芸能人から茶髪の女の子まで~話題に事欠かない芥川賞
ベテラン作家さんの受賞が多い直木賞に比べ、新人や無名の作家さんの受賞が多い直木賞。それだけに、受賞と共に作家さんの個性がニュースになることが多く、毎年話題が絶えません。
2015年上半期に、お笑い芸人の又吉直樹さんの小説「火花」が受賞したことは、毎日のようにニュースに取り上げられました。
2003年の下半期には、17歳でデビューした綿矢りささん・茶髪の「今どきの女の子」なルックスが話題となった金原ひとみさんが受賞。
若い女性二人の受賞は世間を湧き立たせ、本屋には二人の著書を買い求める人が続出しました。この時に、芥川賞の知名度がぐんと広がった印象がありますね。
他にも、辻仁成さんなどが受賞されています。
〇波乱の芥川賞!そこには出版業界の厳しい事情も?
今回のことを含め、何かと議論になりやすい芥川賞。
しかし上述したように、芥川賞の話題が大きく取り上げられたのはこれが初めてではありません。
今年の選考は小説の内容が是非を問われましたが、人気の芸人さんや若い女性の受賞は「本がたくさん売れるように、出版業界が話題性を狙っているのではないか」と言われたこともあります。
そこには、本が売れない時代に「一冊でも多く売れてほしい」と考える出版業界の切実な事情も見え隠れします。
とはいえ、今年の受賞作品は「直木賞」「芥川賞」のどちらも「人間の闇」に迫っており、人間の心理を追求したい人にはこの上なく興味深いものとなっています。
気になる人は、手に取って本の世界に入ってみては?
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